舞台『インヘリタンス-継承-』百瀬朔&久具巨林 Wインタビュー

特集インタビュー
2024年02月11日 23時59分 更新

オリヴィエ賞4部門、トニー賞4部門受賞!ブロードウェイとウエストエンドを感動に包んだ話題作。前後篇6時間半でつづる愛の物語、日本初演!

気鋭の演出家・熊林弘高が挑む傑作巨編。現代NYを舞台に展開するラブ・ストーリー。

NYのゲイコミュニティの人々が差別や偏見を乗り越えて獲得してきたもの、世代を超えて語り継がれる、愛と自由を求める人々の物語が、コロナと戦争の時代に生きる我々の心にしみわたる。 感動のドラマを、個性豊かなキャストで描く。

東京芸術劇場では気鋭の演出家に新たな活躍の場を提供し、演出家・熊林弘高とは、2010年『おそるべき親たち』のシアターウエスト公演以来、充実した共同作業を積み上げてきた。熊林はシェイクスピアやチェーホフの古典作品を斬新な現代劇として蘇らせたプレイハウス公演、日本の現代劇やアングラ戯曲をスタイリッシュに演出した小劇場公演などを手掛け話題になった。唯一無二の演出家として錚々たる名優たちから一目置かれる熊林は、寡作の人としても知られる。自身が納得した作品を1~2年に1本選びぬく熊林が「これだけは」と自ら上演を切望した作品、それが『インヘリタンス-継承-』だ。

本作は、2015~2018年のニューヨークを舞台に、1980年代のエイズ流行初期を知る60代と、若い30代・20代の3世代のゲイ・コミュニティの人々の愛情、人生、尊厳やHIVをめぐる闘いを描いた作品。作者のマシュー・ロペスは本作でラテン系の作家として初めてトニー賞ベストプレイ賞を受賞し、この春ノン・バイナリー(自分を男性・女性という性別にあてはめない)俳優がトニー賞を受賞して注目を浴びた『お熱いのがお好き』ミュージカル版の脚本も手掛ける今注目の作家。病気やマイノリティに対する差別や偏見を乗り越えて力強く生きる人々を描く本作は、上演権獲得を巡りコンセプト・プレゼンとなったが、熊林が勝ち抜き、作者ロペスより日本初演の演出を託された。前後篇6時間半にわたる超大作。熊林はそこに、いま語られなくてはならない物語を見出す。

キャスティングにこだわる熊林の指名を受けてたったのは、信頼篤き実力派の福士誠治、今後が期待される感性豊かな田中俊介、正反対の二役を演じる新原泰佑、そして柾木玲弥はじめフレッシュな若手俳優陣。ベテラン勢としては円熟味を増すベテラン山路和弘、篠井英介などが顔を揃える。さらに熊林作品に欠かせない名女優 麻実れいが後篇のみ、クライマックスで登場するのも見どころだ。

今回、本作でジェイソン1を演じる【百瀬朔】と、ピーターを演じる【久具巨林】を直撃!出演が決まった時の気持ちや、共演してみてのお互いの印象、SGS読者に向けた作品の見どころのほか、恋人とすれ違いをなくすためにすべきことや、「自分らしいな、幸せだな」と感じる瞬間など、気になる素顔が垣間見えるお話も盛りだくさん♪舞台『インヘリタンス-継承-』トレイラー

Q. 日本初演の作品で、東京芸術劇場で上演されますが、出演が決まった時のお気持ちを教えてください。

百瀬朔(以下、百瀬):オーディションだったのですが、今の想定だと6時間半くらいあるので、台本を読むのに精一杯で(笑)。出演できるとわかった時は率直に嬉しかったです。

久具巨林(以下、久具):実は久しぶりのオーディションで「やっとだよ!」という安堵感と嬉しさがありました。

Q. 出演が決まって、友達や家族、事務所の方から言われて嬉しかったことはありますか?

百瀬:「すごいね」とか、「熊林弘高さんの演出が好きだから観に行くわ!」という役者仲間の友達が結構いました。

久具:上京する前に名古屋の小劇場で4年間やっていたので、「芸劇のプレイハウスに立つの?」と、地元の演劇の友達や先輩に羨ましがられました。「ついに名古屋の演劇からもプレイハウスに立つ奴が出たか」と喜んでもらえて嬉しかったです。

Q. 台本を読んだ感想を教えてください。

久具:タイトルの通り、継承されているものが描かれているのですが、それ以外にもいろんなものを繋いでいるのが所々に描かれています。観ている人たちにとっても、ポイントポイントで、心に刺さるものがあるんだろうな。「この人にとっての継承はこういうことなんだ」と気づくポイントがあります。一人一人のキャラクターの物語が、しっかり描かれていて、エリックとトビーが主役というだけでなく、全員が主役になる舞台だと読んだ時に感じました。

百瀬:LGBTやHIVが大きなテーマなのですが、会話劇で、重い話ではないです。とっつきやすい部分があったり、視覚的に楽しめるところもあったりするので、構えずに来てくれると嬉しいです。海外で人気のテレビドラマを、みんながよく知っている日本のテレビドラマに置き換えていたり、日本語に訳す際に訳し方で工夫している部分があったりします。楽しいところもあるなという気持ちで見てもらえたらと思います。
百瀬朔

Q. 台本では一緒のシーンはないですが、同じ事務所に所属されていて、今回同じ作品で稽古してみてお互い「新たな一面を知った」などについて教えてください。

百瀬:以前共演した時は、一日ドラマの撮影をしたくらいでした。

久具:その時は初対面だったので、当たり障りのない会話をしていました(笑)。今回はがっつり稽古場で話をしています。2歳違いなのですが、しっかりしていて29歳に見えない(笑)。朔くんが出ているシーンはほとんど年上の方が多いんですよね。その中でも存在感が消えなくて、しっかり朔くんの持っているもの、ほかのキャラクターにも負けない力強さがあります。いろいろな舞台にたくさん出演しているので安定しているし、セリフの差し方もすごく意識しているんだろうなと感じられます。魅力的な俳優さんだと思います。

百瀬:ありがたいです。2.5次元の舞台にも出演したことがありまして、毛色が全然違うんですがその経験が生きるな、と現場に行くと思います。2.5次元の舞台は「この場所でこれを言って」など覚えることが多く、複雑なものが多いのですが、今回の作品をやって、僕は物覚えが早いほうかもな、と感じました。

年齢の近い俳優さんも多いのですが、久具さんがコミュニケーションをとってくださって。みんなから「ここどうですか」と言われていて、舞台上以外でも、いろんなところに気を付けて見てくださっていると思います。

久具:恥ずかしいですね(笑)。久具巨林

Q. 久具さんはスイングも兼ねての出演ですが、プレッシャーや不安はどのように感じていますか?

久具:稽古の中で、皆さんの動きを見ている時間が圧倒的に長いです。「このシーン楽しそうだな、心が揺れ動くような芝居を自分もできるんだろうか」と思いながら。僕は全キャラクターの特徴を全部見られて吸収し放題なので、それは本当にありがたいな、と。人の芝居をずっと観られる環境って幸せだと思います。

Q. 見学していて勉強になるのはどのような部分でしょうか?

久具:体の使い方や見せ方。本当に小さなことなのですが、熊林さんの演出によって、観ているこちらの印象がガラッと変わる。熊林さんに何か言われてからの皆さんの瞬発力、反応の速さもすごいと思います。「そうか、そのやり方もあるのか」と納得させられる説得力を皆さんが持っていて、今までにあまりない経験かも知れません。

Q. 百瀬さんはジェイソン1と青年2など一人で複数の役を担当されますが、青年2の時は語りのような役目です。ジェイソン1でセリフを言う時と、青年2で語る時とで、声の出し方などどのようにメリハリをつけていますか?

百瀬:今回はそういう立場の人が多いです。複数役をやっている感覚は皆さんあまりないと思います。熊林さんとしても「変えようという意識はなくていいです」、と。

Q. 立ち位置としては、青年2の時は舞台の端のあたり、ジェイソン1の時は中央という感じでしょうか?

百瀬:そんなこともなく、それも面白いところです。セリフがない場面でも、真ん中に座っていたり、僕らジェイソン2人が並んで壁を作ってセリフを言ったりしています。

Q. 登場人物の中で誰に共感しましたか?

久具:全員共感できます(笑)。特にヘンリーとウォルターの場面で本当に泣きそうになりました。セリフの言い方の説得力を、篠井英介さんと山路和弘さんのお二方は持っていて。80年代のエイズが流行った時代を実際に生きていた方々なので、言葉の力がすごく強い。ヘンリーの気持ちもわかるし、心が揺さぶられるし、ウォルターの存在の大きさみたいなものが、物語の要所要所に出てきて、すごく愛おしくなる。僕はこの時代を生きてはいないけど、この2人の考え方には共感できます。Q. ゲイのカップルが別れ、結婚、新しい出会いなどを経験していき、恋愛物語としても見られる作品です。ご自身は恋人とすれ違いをなくすために、何をすべきだと思いますか?

久具:ありきたりかも知れないですが、察してもらおうとするとつまずくな、と思います。例えばサプライズを用意していて、こちらは喜ばせたいから言わないでいるけど、相手は「何?おかしくない?」と思ってケンカになってしまう。相手は様子がおかしいから心配だ、ということで、お互い思い合った結果ケンカになることもあるので、きちんと言葉にして伝えていくのが大事だと思います。先生みたいな言い方してるけど(笑)。

百瀬:僕もそう思います。照れくさいけど、言葉にした方がいいですよね。今LINEとか、携帯電話で連絡を取れるけど、恋愛に関しては便利さを求めてませんよね。「LINEで済ませればいいや」と思うこともありますが、やはり電話して声を聞きたい、面と向かって話したいというのは、友達でも家族でもなく、恋愛の方がより濃く出ている気がします。だからこそ直接話すなど、アナログさを大事にした方がいいのではないか。

久具:なるほどね。手紙を書くとかね。

百瀬:お花や手紙をもらって嫌な人、いないんじゃないかと思います。そういうアナログさがけっこう嬉しかったり、喜んでもらえたりします。「なんでこっちの気持ちわからないの?」ではなく、いい恋愛をしていただきたいです。

Q. 舞台はニューヨークですが、行ったことはありますか?

久具:ないんですよね。行きたいです。

百瀬:僕は3年前に舞台「NINAGAWA マクベス」の公演で行きました。もともと仲が良かった役者仲間の友達が一緒で、めっちゃ楽しかったです。基本的に一日一公演で、夜7時からなので、夕方までフリーなんですよ。一週間ほど滞在して、友達と一緒に古着屋さんに行きました。最初の頃は時差がすごくてずっと眠かったのですが、ニューヨークで舞台ができるってすごいなと感激しました。今回の作品にも出てくる「リンカーンセンター」でやったのですが、めちゃくちゃ大きいところで、蜷川幸雄さんの作品世界に共通する部分があって、行けてよかったです。

Q. 「自分らしい幸せ、自分らしく生きる」ということが作品のテーマになっています。ご自身は何をしているときに「自分らしいな、幸せだな」と感じますか?

百瀬:食事を作るのが好きなので、家に帰って作るのがすごく、ストレス解消になっています。少し前まではお蕎麦ばかり食べていましたが、今は毎日パスタを作っています。麺類と白いごはんを合わせてしまいます。

久具:幸せを感じるのは、映画館でポップコーンの匂いをかいでいる時です。

百瀬:いいですねー。わかるわー。

久具:「映画館に来たな!」となるんですよね。アトラクションに乗る前のドキドキ感に近いというか。あまりレビューを観ないで行くので、「面白さは自分が決める」と思っています。前情報がない状態で行くので、余計にドキドキ感。それも含めて楽しいし、自分はやはりエンタメが好きなんだと思います。

Q. 作品を観た人には、どのようなメッセージを受け取ってほしいですか?読者に向けて、見どころを教えてください。

百瀬: かっこいい男性がたくさん出ているので、入口として、それ目的で観に来てもいいと思います。話自体は難しいけれどある程度楽しめると思いますし、演劇的な作品なので、これまで観たことのない方、若い方が観てくれるとすごく嬉しいです。「ここはわからなかったけどこの言葉は響きました」など感想をいただけるとめちゃくちゃ嬉しいです。男女の恋愛に共通するところもたくさんあると思うので、あまり気張らずに観に来ていただけたら嬉しいです。

久具:海外の作品となると、厳かなイメージですが、意外とポップな部分もたくさんあります。アメリカの政治的な部分やHIVの話もありますが、なんとなくこういうことを言っているんだろうな、ということが見えやすい演出になっています。今、世間でBLが流行っていますが、そういう作品が好きな方がドキドキするシーンもたくさんあります。皆さんが心を掴まれるかどうかはこちらの仕事なので、観に来てもらえたらすごく嬉しいです。

ありがとうございました。

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[プロフィール]

百瀬朔(ももせさく)
1994年7月8日生まれ、兵庫県出身。2013年にドラマ『仮面ライダー鎧武』(EX系)でペコ役として抜擢され本格的に俳優活動を開始。その後映画、ドラマ、舞台に多数出演。近年の主な出演作に、【映画】『映像研には手を出すな!』(20)、『まっ白の闇』主演(17)、【ドラマ】『闇金ウシジマくん外伝 闇金サイハラさん』(22・MBS・TBS)、『顔だけ先生』(21/CX系)、大河ドラマ『おんな城主 直虎』(17/NHK)【舞台】『ワールドトリガーthe Stage B級ランク戦開始編』『カッコウの雛に陽は当たる』(23)、『ディグ・ディグ・フレイミング!』(22)、『血界戦線』『莫逆の犬』(21)に出演。2023年12月舞台『短編集 説得してるのは僕の方』主演にて出演。

久具巨林(くぐまさもり)
1992年11月10日生まれ。愛知県出身。10代は地元名古屋で小劇場を中心に活動し、大学卒業後、2013年に本格的にキャリアをスタート。その後映画、ドラマ、舞台に多数出演。俳優としてだけでなく、舞台の作・演出にも力を入れ、2019年には舞台『吐露』にて演出を手掛けた。主な出演作に、【映画】『オレンジ・ランプ』『また、いつかどこかで』(23)、『野球部に花束を』(22)、『FUNNY BUNNY』(21)、『罪の声』(20)、【ドラマ】NHK特集ドラマ『ガラパゴス』(23・NHK)、『合コン行ったら女がいなかった話』(22・KTV)、『やめるときも、すこやかなるときも』(20・NTV)、【舞台】『ぼうだあ』(20) 、『振り返れない』『部屋と僕と弟のはなし』(19)などがある。『東京ノ空ハ、タダ蒼ク』(20)では脚本、演出を担当。
百瀬朔Q. 台本では一緒のシーンはないですが、同じ事…
久具巨林Q. 久具さんはスイングも兼ねての出演ですが…
Q. ゲイのカップルが別れ、結婚、新しい出会いなどを…
作品概要
【舞台『インヘリタンス-継承-』】
日程:2024年2月11日(日)~2月24日(土)
会場:東京芸術劇場プレイハウス
作:マシュー・ロペス
E・M・フォースターの小説『ハワーズ・エンド』に着想を得る。
訳:早船歌江子
ドラマターグ:田丸一宏
演出:熊林弘高
出演
福士誠治 田中俊介 新原泰佑
柾木玲弥 百瀬朔 野村祐希 佐藤峻輔
 久具巨林 山本直寛 山森大輔 岩瀬亮
 篠井英介/山路和弘/麻実れい(後篇のみ)

※大阪、北九州公演あり
公式サイト:舞台『インヘリタンス-継承-』

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